2025年12月10日更新
髙石あかりさんが演じる朝ドラ『ばけばけ』のヒロイン・松野トキのモデルは、小泉八雲の妻として知られる小泉セツです。
ドラマはセツの人生を下敷きにしつつ、名前や家族構成、出来事の順番を変えたフィクションとして作られています。
ここでは、小泉セツの実像と『ばけばけ』の松野トキを比較し、史実とドラマの主な違いを整理します。
この記事で分かること
・松野トキと小泉セツの共通点と違い
・『ばけばけ』で特にフィクション色が強いポイント
・松野トキのモデルは小泉セツである、という結論
松野トキのモデルは小泉セツ(結論)
公式の発表やドラマガイドでも、松野トキのモデルは小泉セツであることがはっきり示されています。
特に、物語そのものが「セツと八雲夫妻をモデルにしたフィクション」であると説明されています。
ヒロイン・松野トキのモデルは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻・セツ。
物語全体も、史実を大胆に再構成し、登場人物名や団体名の一部を変えたフィクションとして描かれると紹介されています。出典:MANTANWEB(2025年8月31日発表)
つまり松野トキは「小泉セツそのもの」ではなく、「セツの人生をベースにしたオリジナルキャラクター」と考えるのが近いです。
髙石あかりさん自身も、松江のゆかりの場所を巡りながら「トキとして、セツが生きた道をたどった」とコメントしていて、実在のセツを強く意識して役作りをしていることが分かります。
小泉セツの実像|松江士族の娘から“語り部”へ
史実の小泉セツは、1868年に松江藩の上級武士の家に生まれました。
父方も母方も名家でしたが、明治維新後の士族没落の流れの中で、実家も養家も次第に生活が苦しくなっていきます。
セツは幼いころに他家へ養女に出され、機織りの仕事で家計を支えるようになりました。
二十代前半で一度結婚しますが離縁を経験し、その後、松江に赴任してきた英語教師ラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)の家に住み込みで入ります。
1891年ごろからハーンの家で働き始めたセツは、やがて事実上の妻となり、正式な婚姻手続きと夫の帰化を経て、小泉八雲夫人として熊本、神戸、東京へと転居しました。
ふたりの間には三男一女が生まれ、セツは四人の子どもの母として家庭を支えます。
幼いころから物語が大好きだったセツは、各地の怪談や民話を夫に語って聞かせる“語り部”になりました。
『怪談』をはじめとする八雲の作品の多くは、セツが再話した怪談や、周囲の人から集めた話に支えられています。
ハーン没後のセツは、著作権や印税の手続き、回顧録『思い出の記』の執筆、訪問者の応対などに追われながらも、晩年には謡曲や茶道を楽しみ、八雲の遺した作品と家族を守り続けました。
物語好きで、厳しい時代をたくましく生き抜いた女性としてのセツ像が、松野トキのキャラクターの芯になっています。
ドラマ『ばけばけ』の松野トキがなぞっている史実
ドラマの松野トキも、松江の没落士族の娘として描かれます。
旧松江藩士の家柄でありながら、明治になって収入を失い、家族総出で暮らしを立て直そうとする状況は、士族の家に生まれ生活苦と向き合ったセツの現実と重なります。
トキが祖父から「おじょ」と呼ばれて溺愛される描写も、史実でセツが祖父から同じ呼び名で可愛がられていたエピソードが元になっています。
このあたりは、ドラマがかなり意識的に史実を拾っている部分です。
レフカダ・ヘブンとトキの国際結婚、そして怪談や不思議な話を語り合う関係性も、セツとハーン夫妻の姿をかなり忠実に反映しています。
怪談を語ることでふたりの距離が縮まり、夫の著作の重要な“相棒”になっていくという流れは、史実のセツの役割とほぼ同じです。
また、トキが周囲の人から不思議な話や事件の噂を聞き集めてくる描写は、近所の人や新聞の三面記事から題材を集めてはハーンに話して聞かせたセツの実像を踏まえたものです。
このように、トキの「バックボーン」や夫との関係の軸は、かなり丁寧に史実をなぞっています。
史実との違い① 名前と家族構成のアレンジ
一番分かりやすい違いは、名前や家族構成を大きく変えているところです。
ドラマでは、トキが育つ家は松野家、生家は雨清水家という設定になっています。
史実では、セツは小泉家に生まれてすぐ稲垣家の養女となり、稲垣家で育ちました。
この「生家」と「育った家」が分かれている構造は同じですが、家名や人物名はすべて変えられています。
トキの父・松野司之介、母フミ、祖父勘右衛門も、それぞれセツを育てた稲垣家の人々がモデルとされつつ、性格やエピソードはドラマ用にかなり脚色されています。
史実の稲垣家は上級士族として地位を保ちながらも、維新後の経済的困窮に苦しんだ家でした。
ドラマではそこに、ユーモラスな父や“最後の侍”のような祖父像を重ね、朝ドラらしい家族ドラマとして再構成しています。
トキの出生の秘密や、雨清水家との血縁をめぐる物語も、セツが「生まれてすぐ養女に出された」という事実をもとに、視聴者が感情移入しやすいドラマチックな形に膨らませた部分です。
このように、誰が誰のモデルかは公表されているものの、実在人物と登場人物を一対一でそのまま描くのではなく、「モチーフ」としてゆるやかに対応させているのが大きな違いと言えます。
史実との違い② 年代・結婚・エピソードの再構成
もう一つの大きな違いは、年代設定や結婚まわりの描き方、出来事の順番です。
史実のセツは二十代前半でいったん別の男性と結婚し、その後に離縁してからハーンと出会い、再婚しています。
ドラマでは、山根銀二郎との結婚や松野家の借金問題などを絡め、視聴者に分かりやすいラブストーリーとして再構成されています。
トキと銀二郎との縁談、婿入りの条件、家を守るための結婚という要素は、セツの最初の結婚や、当時の結婚事情を分かりやすくドラマ化したものです。
ヘブンの女中探しの場面で、トキが「洋妾にされるのでは」と怯える描写もあります。
これは、当時の国際結婚が「雑婚」と呼ばれ、外国人の妻が「洋妾」と蔑まれることもあったという歴史的な差別意識を、コメディタッチで取り入れたシーンです。
史実でも、セツはそうした偏見と無縁ではありませんでしたが、その複雑さや重さは、朝ドラらしいトーンに合わせてかなりやわらげられています。
一方で、実際のセツとハーンの周囲には、朝ドラでは描きにくい複雑な人間関係や騒動もありました。
研究者やノンフィクション記事では、妾騒動といった生々しい史実も紹介されていますが、『ばけばけ』ではあくまで家族ドラマと夫婦の関係に焦点を当て、そのような部分は描かれていません。
また、セツの晩年の苦労や、ハーン没後の著作権・印税をめぐる奮闘も、今のところドラマの主な題材にはなっていません。
物語は主に、松江時代を中心とした「出会いから夫婦として歩み出すまで」と、その周囲の人々との交流にフォーカスしています。
こうした違いを踏まえると、『ばけばけ』は史実の大枠は押さえつつも、毎朝気持ちよく見られるように、暗い部分や複雑な出来事を整理した“再話”として作られていると考えると分かりやすいです。
まとめ
最後に、松野トキと小泉セツの関係を簡単に整理します。
松野トキは、小泉八雲の妻・小泉セツをモデルにしたオリジナルキャラクター。
松江の没落士族の娘で物語好き、外国人の夫と国際結婚してその著作を支える、という骨格は史実と共通している。
名前や家族構成、結婚までのプロセス、周囲の人物関係などは、分かりやすさとドラマ性を優先して大胆に脚色されている。
セツ本人の人生はドラマよりさらに長く、夫の死後も八雲の作品と家族を守り続けた点が大きな違いになっている。
『ばけばけ』を楽しみながら「どこまでが実話なんだろう」と気になったときは、小泉セツ本人の歩みも合わせて知ると、松野トキというキャラクターの奥行きがより深く感じられます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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